大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌地方裁判所 平成9年(ワ)1014号 判決

札幌市〈以下省略〉

原告

右訴訟代理人弁護士

越前屋民雄

東京都千代田区〈以下省略〉

被告

新日本証券株式会社

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

藤田美津夫

右同

舛田雅彦

右訴訟復代理人弁護士

荒木健介

主文

一  被告は原告に対し、一四四万七七七〇円及びこれに対する平成九年六月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用はこれを一〇分し、その七を原告の、その余を被告の負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告は原告に対し、四八九万五九〇三円及びこれに対する平成九年六月六日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  仮執行宣言。

第二事案の概要

一  事案の要旨

被告から平成七年六月に株式会社オリンピックスポーツ(以下「オリンピックスポーツ」という。)の転換社債を四八九万五九〇三円で購入した原告が、同社が倒産したことにより、本来平成九年九月末日までに受けとることができた五〇〇万円及び倒産後の金利を受けとることができなくなった。原告は、そもそも被告には、同社の外務員において右転換社債の購入時に原告に投資適合性がないのに購入を勧めたり、商品の内容を十分に説明する義務を果たさなかった違法があるとして、出捐額の損害賠償を求め、あるいは、被告外務員の説明が詐欺にあたるので購入の意思表示を取り消すとして右出捐額の返還を求めた事案である。

二  前提となる事実(争いのない事実及び明示的に争点となっておらず、引用の証拠により認定できる事実)

1  原告は、平成七年六月二一日、被告から次の内容のユーロ円建て転換社債(以下「本件転換社債」という。)を購入した。

発行者 オリンピックスポーツ

発行日 一九九三年(平成五年)八月一九日

発行総額 五〇億円(券面額一〇〇万円)

利率 年一・七五パーセント

償還日 一九九七年(平成九年)九月三〇日

償還金額 券面額

転換価格 一株当たり二一五三円

転換期間 一九九三年(平成五年)九月一日から一九九七年(平成九年)九月二三日まで

利払日 一九九四年(平成六年)三月末日から一九九七年(平成九年)九月三〇日までの間の三月及び九月の各末日

取引所 ルクセンブルク証券取引所

2  原告の夫B(以下「B」という。)は、平成二年一月ころから被告札幌支店と取引をしており、被告の担当外務員はC(以下「C」という。)であった(乙三、四)。

3  Cは平成七年六月初めころ、DからBが病気のため長くは生きらないので、同人の保有する金融資産について相談したいとの電話連絡を受け、同月一六日原告宅を訪問し、本件転換社債を勧めた。

同月二一日、Cは被告本店からの情報により、本件転換社債の買付けが可能であることを知り、Dに電話をかけ、本件転換社債が買付可能であることを伝え、その際、本件転換社債の銘柄、償還時期、利率、買付見込単価、実質利回り等を説明した。DはBの保有する転換社債や国債を売却し、その資金をもって直ちに本件転換社債の買付けを申し込んだ(乙三)。

Cは、被告本店に買付予約をした上、原告宅を訪問し、原告及びBに外国証券の取引の注文を受ける場合には外国証券取引口座設定約定書が必要である旨説明し、原告の署名押印を受けた。Cは、被告札幌支店に戻り、本件転換社債の買付注文を行った。

4  オリンピックスポーツは、平成八年九月一七日名古屋地方裁判所岡崎支部に対し破産の申立てをなし、同支部は同年一一月二〇日破産宣告をした。

三  原告の主張

1  投資適合性

原告自身は、資産の運用・管理をBに任せており、自ら行っていなかった。このことはCにおいて十分認識していた。原告は平成五年七月と平成六年七月の二度にわたる脳梗塞の病気により、軽度の失語症、事理判断能力、理解力が低下していた。

したがって、原告には投資適合性がなかった。

また、本件転換社債の取引において、原告を補佐したDにおいても証券取引についてはほとんど知識がなく、転換社債の発行会社が倒産した場合にはその価値がなくなってしまうことすら知らなかった。

2  説明義務違反

原告及びDは、それまで資産の運用・管理を任せていたBの死が近く、これからは自ら管理していかなければならないことに不安を抱いていた。そのような気持ちから原告及びDはCに対し、Bの死期が近いことを話して相談し、「利率は低くても絶対に損はしないもの」という希望を述べた。これを受けてCは本件転換社債の購入を勧めた。その際、「本件転換社債は元本保証確定金利であり、絶対に元本割れしない安全な商品です。二年後の九七年に元本と利息がついて確実に戻ってきます」等と説明した。

右以上に、発行者の情報、商品の内容についての詳しい説明は受けていない。以上のCの説明は、本件転換社債の危険性の説明として不十分であるばかりか、元本保証などと誤った説明をしており不法行為となるから、被告は使用者として原告が出捐した額を賠償する責任がある。

3  詐欺による意思表示の取消

被告は、本件転換社債が何ら元本の保証されるものではないにもかかわらず、Cをして元本保証であると説明させ、同人をして本件転換社債を売却させた。被告の右行為は欺罔行為であり、原告は右欺罔により本件転換社債が元本保証のものであるとの錯誤に陥り、その結果本件転換社債を購入する旨の意思表示をしたのであるから、この意思表示を詐欺によるものとして取り消す。

四  被告の主張

1  投資適合性について

原告は、平成元年一二月以降、被告札幌支店との間で、多数回にわたって金貯蓄、株式、公社債投資信託等の取引があり、豊富な投資経験と証券知識を有していた。

更に、本件転換社債購入の勧誘・説明を受けた際には、Dが同席し、実質的にはDの判断にしたがって、銀行預金の利率と比較して短期間に高利回りを確保しうることに着目して投資を決定している。

また、その後もDが原告名義で転換社債、公社債投資信託、外国国債、投資信託等の取引を行っている。

以上のとおり、原告には一般的に投資適合性があるし、本件転換社債購入時にDの補佐があったことを勘案すれば、原告の投資適合性には問題はなかった。Dにおいて、社債の法的意味さえわからなかったということは考えられない。

2  説明義務違反、詐欺による意思表示の取消について

Cは原告に対し、本件転換社債は元本確定、確定利回りであるとの説明をしているが、これは右商品の説明として正しいものである。元本保証であるなどという説明はしていない。

本件転換社債は、発行者に対する金銭債権であるから、発行者が倒産すれば無価値となることは当然であって、被告にはことさらにそのことを原告に対して説明する義務はない。更にCは、本件転換社債の取引に際し、利回り計算表を利用しながら実質利回りについて説明するほか、発行者情報及び証券情報を記載した外国証券内容説明書を交付し、口頭でも右情報について適宜説明している。したがって、Cには説明義務違反はない。

3  因果関係

原告が被った損害は、オリンピックスポーツの倒産によって生じたもので、被告による本件転換社債販売と原告の損害との間には因果関係がない。

4  過失相殺

被告に説明義務違反があったとしても、証券会社の取扱商品を購入しようとする者は、いわゆる元本が保証された商品が存在しないことを常識として知っていなければならない。Dは「何があっても絶対大丈夫」と信じ、商品の性質、発行者の内容等について外務員に説明を求めることなく、もっぱら外務員の勧誘にしたがい、利回りのみに着目して本件転換社債を購入したものであり、証券投資をする者として極めて軽率である。原告及びDには本件損害発生につき多大の過失があり、少なくとも九割の過失相殺をすべきである。

五  争点

1  原告あるいはDの投資適合性

2  被告外務員Cの説明義務違反の有無

3  Cの説明義務違反と損害の因果関係

4  原告側の過失の有無、程度

第三当裁判所の判断

一  認定事実

1  一般にいわゆるユーロ円転換社債は、発行・利払い・償還が円建てでなされる為替変動によるリスクがない商品である。また、転換社債は流通中には、株価、金利等の要因による値動きがあり、これを償還期限前に処分しようとする場合には、価格変動によるリスクを生じるが、最終償還時には額面全額が償還される。償還前になされる利払いの利率は確定している。

したがって、本件転換社債は、償還期限まで保有する場合には、元本の安全性が高く、確定金利の商品と評価できる。

2  Cは、原告及びD(以下両名を表す場合に「原告ら」ということがある。)に対し、償還期限まで保有し、額面を償還するという前提でのみ本件転換社債の購入を勧め、中途で処分することは全く念頭に置いていなかった。

3  平成元年一月から原告名義で被告との取引が存するが(乙一、二)、Bの生前は、実質はBが原告名義を用いて証券取引を行っていたものであって、その点はCにおいて、十分認識していた(D証言、C証言)。Bが死亡したのは平成七年七月一一日である(D証言)。

4  Bは、生前、自分の財産のみならず、原告の財産まで管理していた(甲三、甲四、甲五、甲八、D証言)。Bが投資商品の金利を受けとるために被告札幌支店店頭に赴いた際に、原告も同行することはあった(乙一一)。

5  原告は、大正一〇年生まれで長年教員をしており、退職後は主婦として生活していた。本件転換社債購入時まで、原告自身には資産の運用・管理についてほとんで経験がなかった。また、平成五年七月及び平成六年七月に脳梗塞で倒れ、その後遺症で本件転換社債購入時には判断力、理解力の低下が認められた。

右のような事情から、実質的にCと本件転換社債購入の話をし、購入の判断をしたのはDであった。そのきっかけは、前提となる事実3記載のとおりである。

6  Dの最終学歴はa大学英文科卒業で、主婦である。

7  平成七年六月初め、Bの金融資産について、DがCに相談した際、DはCに対し、母の退職金で大事なものなので安全なものにして下さいと言い、利子は低くても安全で元本割れしない金融商品の紹介を依頼した。

8  これに対し、CはオリンピックCB(シービー)という言い方で、本件転換社債を紹介した。その際、利率や満期、満期時には額面額が償還されることについては説明したが、オリンピックスポーツという会社が出す転換社債であることやオリンピックスポーツがどのような業務内容の会社であるか、そもそも転換社債とは何か、社債とは何かについて原告らが理解する程度まで説明しなかった。

Dは、オリンピックというのは会社名ではなくて、商品に付けられた名称であると思っていたと証言する。証券会社が取り扱う投資信託等の商品にはしばしば識別・特定するための呼称が付されており、Dがそのように考えたことも無理からぬものと理解できる。このことからも、Cがオリンピックスポーツが会社名で、どのような業務内容の会社であるかについて十分説明しなかったと認められるのである。

また、Cは本件転換社債は「元本保証確定金利」という誤った説明をし、Dは社債はすべて元本保証確定金利であると認識していたことが認められる。

この点につき、Cは右のような説明をしたことはないと証言しているので検討する。

オリンピックスポーツ倒産から半年以上経った平成九年四月九日、本件転換社債に関しDがCに相談した電話の内容からすれば(甲二)、DはCが元本保証確定金利という言葉を使って本件転換社債を売ったという認識をもっていたこと、Cもそのような言葉を用いて販売していたことを認めていたことは明らかである。

Cは、陳述書においては「Dさんがどのように主張すればいいのかと尋ねてきましたので、奥様が証券投資には全くの素人で何も分からず、私が今回のユーロ円CBを勧めた際に『元本保証』だと言ったと主張するように助言しました。奥様やDさんがそのように主張すれば有利になると思ったからです」と説明し(乙一一)、証人尋問においても同旨の証言をしている。しかし、現実には「元本保証」という用語を用いていないにもかかわらず、顧客のために自己が勤務する会社に対する背任行為ともいうべき助言を顧客にするということは到底考えられない。Cが債券、証券投資信託に関する証券業協会の外務員資格をもっていることから、本件転換社債が元本保証でないことは知っていたはずであると一般的には言えるが、元本割れしないという意味で安易に「元本保証」という用語を用いたことも十分考えられる。Cとの会話の中でDが「元本保証確定金利」という言葉を使って売ったことがまず問題だと思うという趣旨の発言をしているが(甲二)、このことはDが現実にそのように言われて買ったという認識をもっていたことを示しているところ、そのような認識をもったのはCが実際「元本保証」という言葉を使ったからであると考えるのがもっとも合理的である。

9  被告は、外国証券内容説明書(乙七と同様のもの)を札幌支店から成約後直ちに原告に送付した。

Dはこのような説明書は見たことがないと証言するが、取引が成立した場合には札幌支店の総務部(課)から一律に送付される仕組みになっているということからすれば、原告らの元にも届けられた蓋然性が高いと言える。

10  Dは、本件転換社債購入後も原告名義あるいは自己名義で公社債投信、転換社債、外国債等を購入した(乙一、二、五、六)。

二  判断

1  争点一(原告らの投資適合性)について

原告と被告札幌支店との間で、多数回にわたる金貯蓄、株式、公社債投信等の取引が認められるが、これらの取引はBが原告名義で取引していたに過ぎず、またBが被告札幌支店に赴くことはあっても単に同行していたというだけでは到底原告に証券投資に関する知識・経験があったとは認められない。また、原告には判断力・理解力の低下があったのであるから、本件転換社債購入時に投資適合性があったとは認められない。

しかし、本件転換社債に関して、DがCから説明を受け、Dが購入の判断をし原告名義で購入したたという実態があるから、投資適合性の判断においては、Dの判断力や理解力を前提として検討しなければならない。Dには本件転換社債購入までに証券取引の経験はないが、本件転換社債の商品としてのリスクの低さを考えれば、一般的な投資適合性は十分有していたと認められる。

2  争点二(被告外務員Cの説明義務違反の有無)について

一般的に、社債は償還日まで保有している限り、リスクが小さく安全な商品であるが、発行会社が倒産した場合には償還できなくなることは、社債とは何かを分かっている者にとっては当然のことであるから、そのような者に社債を販売するに際しては、特に発行会社の償還能力に問題があるとの情報が証券会社に入っているような場合を除いては、発行会社が倒産した場合には額面金額が戻らないことを説明する義務はないといえよう。

本件転換社債も例外ではなく、社債とはどのようなものであるかを知っている者に対して販売する場合には、発行会社たるオリンピックスポーツの償還能力に特に問題があるという情報が被告に入っていたとは認められないから、オリンピックスポーツが倒産した場合には額面金額あるいは出捐額も戻らなくなることを説明する義務はないものと言わなければならない。

しかし、本件は、Bの死期が近いことからBの取引を長年担当してきたCにその金融資産の処理を相談し、安全確実なものをと要請したところ、Cが本件転換社債を勧めたので、原告らには証券取引の知識・経験もなかったが、Bが信頼していたCが勧める商品であるから間違いはないだろうと信頼して、商品内容について分からないままに、本件転換社債を購入した事案である。つまり、Cにおいても、原告らがCに相談した趣旨からいって、社債も含め証券会社の扱う商品についての知識がないことは十分分かっていたと認められるのである。したがって、このような原告らに対し、一般的には安全確実な商品といえる社債を勧める場合にも、Cは金融商品についての知識・経験が豊かなBにしてきたのと同様の対応で済ませることなく、(転換)社債とはなにか、どういう仕組みになっているのか等を十分説明し理解させ、原告らがオリンピックスポーツという会社は何をしている会社なのか、業績に問題はないか等について当然生じるべき疑問や注意を喚起し、これらについて検討させるきっかけを与える義務があったというべきである。

ところが、Cには、Bとの取引の延長のつもりで原告らのCに対する信頼に甘え、あるいは発行会社が倒産することはない、社債は償還まで保有すれば確定金利で額面金額が償還されるからDに損をさせることはないという考えからか、社債とは何かについての説明を十分にしなかったと認められる。

更に、Cは本件転換社債が「元本保証」であると説明している。この誤った説明に関しては、Dには、元本割れしないということと元本保証ということの意味を明確に認識できるだけの知識がなかったから(D証言)、本件に限ってはCが元本保証という用語を使ったこと自体に決定的な意味があるわけではない。しかし、元本保証という言葉が原告らの安心感を強め購入に踏み切る大きな動機づけとなったことは否定し難く、Cの説明義務違反の一要素をなすと評価できる。

なお、契約成立後に外国証券内容説明書が送付されたことが認められるが、購入後に内容を説明する書類が送付されたことをもって、購入時の説明不足が補われ、説明義務違反がなくなるものではない。

また、被告はDが本件転換社債購入後も転換社債、外国債、公社債投信などの商品を購入していることをもって、これらの商品について十分理解した上で、金利の高いものに投資していたと認められる趣旨の主張をするが、これらの商品の購入はDがCを信頼していたため、同人から勧められるままに購入したと考えて矛盾はなく、これらの購入をもって本件転換社債の購入時には社債等について理解していなかったという前記認定を左右するものではない。

以上のCの誤った説明、不十分な説明は全体として、本件転換社債販売に際して要求される説明義務を尽くさなかったものとして、不法行為を構成するから、被告は使用者として、これにより原告が被った損害について賠償する義務を負う。

3  争点三(Cの説明義務違反と損害の因果関係)について

原告らは、Cに対し安全確実な商品を依頼をしていたのであるから、Cが転換社債について十分の説明をしたのであれば、オリンピックスポーツの業績を調査するなどして、本件転換社債を購入するに至らず、その結果オリンピックスポーツ倒産により、償還が受けられないという損害を受けなかった蓋然性が高い。

よって、Cの説明義務違反と原告の被った損害との間には因果関係がある。

損害額については、原告の損害を本件転換社債を購入しなかった場合と購入した場合との差額と観念する以上、オリンピックスポーツ倒産までに支払われた利払い分(二回、合計七万〇〇二円)は控除すべきである。

なお、オリンピックスポーツの債権者として配当が見込まれるが、その額がいくらになるかは現段階では判然としないから、その分は本件では考慮しない。

結局原告の損害は出捐額四八九万五九〇三円から右利払い分を差し引いた四八二万五九〇一円となる。

4  争点四(原告側の過失の有無、程度)について

原告は、前記のとおり、被告札幌支店におけるB担当の外務員であり、Bが長年にわたり取引を継続してきたCを信頼して、自己が購入する商品の内容について理解することもなく購入したものである。

Dは、本件転換社債を中途で売却するのではなく、また、転換権を行使するつもりもなく、償還日に額面金額の償還を受けるという前提で購入したものであるから、その意味では社債としての性質のみを考慮すればよいものであり、額面金額あるいは出捐額が戻らない(いわゆる元本割れ)リスクは、オリンピックスポーツの経営が破綻するリスクそのものであることは容易に理解できるところである。したがって、商品として特に複雑なところはなく、商品が社債であり、社債とはどのようなものかさえ理解できれば、あとは発行会社たるオリンピックスポーツの業績を調査検討するに至るはずのものである(もちろん、仕組みを理解した上でそのようは調査をするかしないかは購入者の自由である)。

つまり、金融商品を販売する証券会社に説明義務があるとされる根拠として理解されている情報の偏在は、本件転換社債の購入に関しても存在するが、それは複雑な商品に見られるような大きいものではなく、前記のとおり被告外務員にその差を埋めようとする行為が全く認められなかった点に過失があるものの、Dの学歴の高さに鑑みても、原告らがほんの少しの注意を払いさえすれば、右情報量の差を容易に埋めることができた事案である。そのような注意を払うことなく、いわば外務員に任せきりにした原告らの過失は極めて大きいと言わなければならない。

前記認定のすべての事情を考慮すれば、原告の過失七割、被告の過失三割と認めるのが相当である。

5  その他

原告はこの他に詐欺による意思表示の取消の基づく請求をしているが、Cに欺罔の故意があったと認めるに足りる証拠はない。したがって、原告のこの請求には理由がない。

第四結論

よって、原告の主張は第三、二、3認定の損害額の三割の限度で理由があるから、この範囲で認容することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 金子修)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例